四季の小路
北海道俳句年鑑2022年度版に掲載された北海道俳句協会会員の作品をご紹介しながら、北海道の四季をたどります。今週は下記の皆様(敬称略)の作品をご紹介します。
今本衣女
(旭川市/玉藻)
狂宴の終わつてみれば秋の立つ
麦の秋丘ひた走るコンバイン
アカシアの花咲く街でカノン聴く
寒戻る町にとどめを刺すごとし
けあらしの金色光る朝ぼらけ
今井嘉子
(札幌市/百鳥・蒼花)
シャンパンの栓抜く音や春の宵
追伸の重き一行春浅し
はまなすや波音近き祖父の墓
秋桜歩く速さに川流れ
古里に似たる景色やななかまど
猪俣総恵
(札幌市/はるにれ)
集落の墓所の明るさ花芒
初秋や世界遺産の幟立つ
一日の補聴器しまう秋灯下
沖揚げの音頭あい風初鰊
望郷の鰊の煙ろばた焼
伊野多津男
(札幌市/草木舎)
押入れを整理してゐる文化の日
石狩の沖の沖まで小春かな
数へ日や三密避けて家籠り
長電話春愁かろくなりにけり
お互ひに耳遠くなり冷奴
伊奈青人
(札幌市)
春寒し蕾は黙の小宇宙
寝返りの耳のうしろは虎が雨
安穏は闇に紛れて遠花火
乱世の予感白虹秋天に
螻蛄鳴くや今宵も旅の停車駅
伊東美弥子
(札幌市/雪嶺)
お揃いのハンカチ今もこの箱に
三月の誕生祝子と孫と
コロナ禍の春分の朝夫逝けり
爽やかや遺影の夫に風入れて
初盆の仏間に並ぶ孫五人
伊藤哲
(札幌市)
リラ冷えやほのかに甘き胃腸薬
新しき息を生み出すセロリかな
冬晴や犬の補助輪軽やかに
ひもすがら雨は銀色冬に入る
座布団にくぼみの残る小春かな
伊藤千枝子
(天塩町/雪華)
利尻嶺の雲の百態雁帰る
ダイヤモンド富士へと夏至の日の利尻
解氷のかがやき河口を躍り出る
無人駅どこも相似て虫の闇
万緑に抱かれやすらふ古窯かな
伊藤玉枝
(小樽市/ホトトギス・葦牙)
北窓を開きブラツク珈琲飲む
片付かぬ机辺余寒の棲みつきぬ
黄塵万丈水底にゐるやうな
暑き日の太陽燃ゆるまま沈む
船上のダンスパーティー星月夜
伊藤淳雨
(岩見沢市/雲の木)
はるけしや騎馬民族のよなぼこり
少年の夢はパティシエ春兆す
雨の日は傘をさせる日立葵
戦場も五輪の地にも虫時雨
エコバッグ三つ抱へて年用意
伊藤えみ子
(札幌市/道)
櫂休め水底のぞく五月晴
今更の捨てし故里穴まどひ
着ぶくれの夫の矜持に触れまじと
松手入れ庭師は若き異国人
枯葎風が攫ひし子の帽子
市川翠子
(函館市/艀通信)
鷹鳩と化す制服の金ボタン
霾るやでか字まっぷの中を旅
列島の朝は北から返り花
ニュースまでに帰るつもりの北狐
父母の知らぬ令和の落葉踏む
磯江波響
(網走市/壺)
海明けや海の漢の血が騒ぐ
流氷の変幻自在忍者めく
氷海に昇る太陽真つ四角
揚船の舳先揃へて春を待つ
春の夢わが青春の湧網線
和泉すみ子
(北広島市/道)
学らんを吹きつ叩きつ青嵐
澄む水にふるふ光の声を汲む
「銃後の子」たりし歳月開戦日
落葉松の散る金の雨えやみなほ
風花や隣を歩む基督者
石山雅之
(札幌市)
源流の雫は序曲雪解川
残る生の天与の日数沙羅の花
今生を刻む日月滴れり
奔放の雲の行方や風の秋
まぎれなく息合ふ天地根雪くる