四季の小路

北海道俳句年鑑2024年度版に掲載された北海道俳句協会会員の作品をご紹介しながら、北海道の四季をたどります。今週は下記の皆様(敬称略)の作品をご紹介します。

大山勝美
(浦河町/道)

整然と囚徒らの塚萩の秋
雁わたる月形町は旅の途次
つむりても眠りにつけぬ残暑かな
虫やみて夜の静寂ふかみゆく
はや秋と思はば母の忌月かな

岡正子
(札幌市/花桐)

鶴が舞ふ祖父が遺した雑煮椀
戒名を忘れる日あり春時雨
水無月や賛美歌清し同窓会
汗光るコーラ飲み干す若き喉
走り蕎麦運河の街の中通り



岡澤草司
(札幌市/アカシヤ)

遠点に目を澄ましたる鹿の群
寒明けの職人素手を見せにけり
手に滑る和紙の肌理より春立てり
初夏や翼のいこふ千木の先
風鈴の次の音を待つ連子窓

岡田慶子
(小平市/道・嵯峨野)

水引草心なごます散歩道
渋柿の焼酎合せ懐かしき
秋耕や土の力を思い知る
秋の朝紺碧の空深呼吸
公園は冬仕度せり風抜ける




岡本嘉子
(札幌市/濃美)

今生のいろを尽して今朝の雪
めぐりくる春や戦さの終りなき
水の香のほのかリラの香仄かかな
開拓の民よと石碑建つ文月
外ッ国の人声高し葉月過ぐ

岡本蘭亭
(札幌市)

夏座敷絵筆整え光琳忌
商人の鞄重たき炎暑かな
青い海青い空みて袋掛
夏果つるサヨナラだけが人生だ
春昼や馴染の店へ顔を出す


小川桂
(札幌市)

ブラウスの抛物線に蝶の風
しみじみが象の昼寝に降りつもる
木の自傷月は媚薬のように降る
立ち読みの梟がいる紀伊国屋
鮟鱇のふるえが奥歯に来て暗い

奥野津矢子
(札幌市/白魚火)

阪神忌雪後の天を仰ぎをり
ポケットに憂さと喉飴空つ風
陵の如く山あり遠霞
そこここにカムイの宿る若葉かな
会へば手を握る母なり釣忍


小田島清勝
(札幌市/葦牙)

長靴のしっかり摑む春の土
年老いし二人が内裏ちらし寿司
金葉の時雨の中を歩みけり
鶏をむしるという酷さ聖夜なり
凍て道やポストは遠く意地悪く

小野すみれ
(札幌市/花桐)

紫木蓮の二本咲く家裏通り
花柄の裏地ちらりと春コート
珈琲を片手にひとり日向ぼこ
セーターに欠片ぱらぱらミルフィーユ
絵手紙の柚の丸みや寒見舞



小野寺明美
(苫小牧市/巒)

胸の内透かせば似た色すみれ草
無機物の音声案内梅雨湿り
へばりつく影まで重い炎暑かな
乳飲み児を抱える様に今年米
療養の冬を抜け出す直行便

小野寺泰代
(江別市/花桐)

春風やボーンチャイナのペアカップ
夏風邪の倹しき粥の椀二つ
検診の夫の背ナ追ふ秋の蝶
噛み合はぬ二人の会話日向ぼこ
二人居の早寝早起き去年今年


小畠スズヱ
(旭川市/樹氷)

爽やかに僧衆読経の声起り
幾度も雨に倒れし油点草
稀といふ山日和なり濃竜胆
晴れ渡る天に紫菀の色を置く
彼岸花かたまつて燃えとんで燃え

尾村勝彦
(札幌市/葦牙)

世に出づるごとく茅の輪をくぐりけり
愛憎の果ての孤影や生身魂
精霊とんぼ澎湃として國敗れ
「開墾の記」を読む勤労感謝の日
伊勢海老のそのくれなゐのめでたさよ

風花まゆみ
(札幌市)

寒晴れのべうべうたるや十勝の野
薄氷のもうぢき水になる震へ
ぶらんこの声の届きて国豊か
菜の花や育成牧場今日も晴れ
この街でととのふ私花みずき




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