四季の小路
北海道俳句年鑑2025年度版に掲載された北海道俳句協会会員の作品をご紹介しながら、北海道の四季をたどります。今週は下記の皆様(敬称略)の作品をご紹介します。
奥野津矢子
(札幌市/白魚火)
水温む記憶はいつも曖昧で
床屋より戻る涼しき耳二つ
雨雲の来て鶏頭の渦固し
冬の朝月は生絹のやうに浮き
多喜二忌の雪は忘るるために降る
小澤泰子
(小樽市/道)
大雪にせめてもと持つ子のシャベル
席譲り譲られ春の路線バス
彼の地へと友たんぽぽの絮に乗り
快晴の目覚めのメール薔薇手水
アスファルト瞬時に小雨干す酷暑
小田島清勝
(札幌市/葦牙)
永字八法ことごとく野分
学徒動員草萌の札幌飛行場
連翹の散るために咲くエネルギー
手の甲に血管が浮く花野
小春日の一歩一歩はこの世の一歩
小野すみれ
(札幌市)
リラ冷えやミニシアターの赤き椅子
レトルトの湯煎ふつふつ長崎忌
文化の日「順路」の多き美術展
裏通りにキムチ自販機草の花
着ぶくれて駅のベンチで待つ始発
小野寺泰代
(江別市/花桐)
証書手に着物に袴卒業す
スーツ着てお歌にダンス卒園す
病む人を見舞ふ車窓の青田かな
夫の喜寿祝ふ円居や福寿草
着ぶくれてレジのつり銭被災地へ
尾村勝彦
(札幌市/葦牙)
きりぎりす遊びをせむとや夜を鳴く
二日はや狸小路へ化かされに
阿達太良山に無垢の空あり連翹忌
天蓋の冥冥として雪無尽
三井寺の夕鐘撞かずに戻る花疲れ
風花まゆみ
(札幌市/雪華)
雪しんしん沃土眠りにつかせけり
冬ざるる硬式野球部存続か
ランナーの尖るくるぶし芝桜
朝涼し牛舎に花の名の仔牛
八月やこの子らに空青くあれ
風花美絵
(札幌市/雪華)
復職の机にひとつ桜餅
清明や深海魚にも朝がくる
葉桜や最終便のG ゲート
みどりさす参道のこゑをちかへり
一の橋二の橋わたる秋の風
梶鴻風
(恵庭市/句写美)
大方は耐乏に生き昭和の日
白玫瑰白夜と思ふ夜明け前
秋収め片付けきれぬ本の山
ダリア咲く立冬の駅の東口
酒好きの父思ひ出す親鸞忌
桂せい久
(苫小牧市/ホトトギス・玉藻)
大仏の鼻抜けるごと寒明けぬ
初空を見てより一句得し幸よ
和歌一首我にもありて実朝忌
雪まつり雪の恐さを忘れけり
初蝶を見れば残像白のまま
加藤寒月
(札幌市/澤・道)
カトレアに新女王蜂蠢けり
鷹呼べば地をすれすれに飛び来たり
山雀の手に来て止まる時止まる
白藤の房の下なる寂光土
炎天やマスデバリアの過眼線
加藤恵子
(札幌市)
かくはねるふむおちとける雪の音
どつぷりと黒に浸かるる片かげり
今日大暑猫の集会休みです
造り物めいた満月ネオン街
くせつ毛の棟方志功空つ風
加藤弘美
(札幌市)
古代蓮時空超えたる風に咲く
膝の子の跳ねては匂ふ天花粉
松籟を挽歌に父母の墓洗ふ
奔放な神の落書稲光
数へ日の一と日を母に残しおく
加藤ひろみ
(旭川市/雪華)
桐下駄の母の指あと晩夏光
テラスのテーブル主賓の小鳥来る
雪来たるいま八千草のみづみづし
盤上の雲行きは不利みかん剥く
寒暁や化粧ひ済みたる死者の頰
金井睦月
(旭川市/道)
羊日やこれより先はボレロなり
恙無く今宵胡葱膾かな
父の日や古き時計の鳩が出る
万物の影ながくなり木染月
火の恋し人の恋しや小糠雨