四季の小路
北海道俳句年鑑2023年度版に掲載された北海道俳句協会会員の作品をご紹介しながら、北海道の四季をたどります。今週は下記の皆様(敬称略)の作品をご紹介します。
坂口悦子
(苫小牧市/白魚火)
夢の字の大きくはねて筆始め
初虹やクラーク像の指の先
香水の空き壜にあるパリの夢
クレヨンの青を買ひ足す夏休み
垂幕は「祝甲子園」夏燕
坂本継之助
(由仁町/畦道)
秋桜思うままには生きられず
あるがままなすがままなり残り菊
初暦いくつか嘘を書き入れて
厳寒の空気をゆらす牛の群れ
君や忘る訪れのなき水温む
坂本樂生
(北斗市/道・上磯俳壇)
句碑櫻無沙汰を詫びてワンカップ
静寂の沼に百花や水芭蕉
かの夏の逃避行三十八度線
父母の歳越えて卒寿や秋彼岸
老妻と宇治茶八つ橋秋うらら
櫻井有香
(札幌市/壺)
雪の華立木のねむり深くして
降るさまにきのふ遠のく春の雪
十軒の向きを同じく雪の原
冬籠名なしの星にははをみて
大湿原生命をつなぎ鹿の鳴く
櫻井伸良
(苫小牧市/いには)
先づに記す祖の忌日や新暦
雪解空池のまはりを三千歩
姉弟見とる館の木彫雛
雪解山木々の根方に雪まくり
少女の像春の光をひとりじめ
佐々木蓉子
(えりも町/道・えりも吟社)
ひぐらしの声とぎれたる寺の門
大夕焼け一休みする試歩の杖
乳牛の張りし乳房に風光る
生き下手の九十にやさし赤とんぼ
川底の石の百態水の秋
佐々木凌子
(えりも町/えりも吟社)
薄氷の水が流るる坂の町
幼子の頬にふれおり五月風
山々をほのかに染めし桜かな
強東風やすだれのごとし吊昆布
読経に頭をたれて報恩講
笹森俊行
(札幌市/澪)
国許の近くにをれど寝正月
祭り終へ五戸八人の村となり
隠れ来し民の祈りや五月来る
盆帰省通学駅は無人駅
年の瀬の妣の面影背ばかり
佐藤和則
(札幌市/秋・秋さくら)
寒月の時鐘泌み込むビルの群
余命三ッ月の友送り行く雪時雨
一文字を授く満足温め酒
彼岸寒縹に眺む雲けぶり
蟹漁やカゴ満杯の雪の果
佐藤柝音
(旭川市/道)
春日射す席より埋まる待合所
突かれては何処かが凹む紙風船
ゆく人も花野の花となりにけり
大根引く引く一瞬の恋ごころ
鈍色の空と触れゐし冬の川
佐藤琴美
(札幌市/白魚火)
さはやかに百年目てふ飴屋かな
秋澄めり路地裏カフェのオムレット
写真展は鉄路の跡地秋うらら
良く動く車夫の太股秋高し
海の色空に返して秋深し
佐藤尚輔
(石狩市)
今年また時間を旅す初日の出
マジシャンの指がパチンと大雪解
生涯の桜思ひつ桜見る
リラ冷や雲の懸かりしテレビ塔
マスクしていよいよ寡黙古書店主
佐藤壽美子
(札幌市/蒼花)
弥生空地図なき夫はどのあたり
風呂敷の包み上手や梅雨の客
住み古りて熊出た話晩夏光
雲の峰高飛の子胸反らす
くれないの先尖がらせて冬薔薇
佐藤宣子
(岩見沢市/ホトトギス・夏至)
秋の雲ゆつたりほつとする暇
曇天の河口混雑鮭遡る
仲良しの二匹か競ひ遡る鮭
色鳥のひたすら胸を張り日向
年尾忌の雨地獄坂天狗山
佐藤日和太
(函館市/艀通信)
森羅万象元旦の深呼吸
集配の鍵の音する朧月
鉛筆の影の連なる夏座敷
森の字の左の扉開いて秋
三枚の窓三人の冬の虹